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2009.11.01 (Sun)
【2009リーグ1部】11/1 慶應義塾大VS筑波大 第2戦
衝撃的な敗戦を立て直した慶應大
最後は4年生への花道となる100点ゲームで幕
慶應義塾大119(34-20,21-21,27-24,37-32)97筑波大
目の前で手放した“優勝”の二文字。
アップを行う慶應大の選手たちの顔には、一夜明けてもやはり前日のショックを隠しきれない固さが浮かんでいた。しかし、試合が始まると次第に本来の姿を取り戻す様子がはっきりと分かった。
試合の出足はやや固さが見えた。筑波大のゾーンは効果的で、慶應大はトップギアの軽快なオフェンスとは言えないが、それでも第1戦と違っていたのはシュートの確実性。#16二ノ宮(3年・G)のアシストや#7岩下(3年・C)のインサイド、#16二ノ宮の速攻などでリズムを作り、#14酒井(3年・F)のアウトサイドも当たって1Qで34得点。慶應大らしいゲームの数字を出して見せた。筑波大も第1戦の勝利で自信を持ったプレーが見えたが、実力で勝る慶應大がやはり上だった。前半は粘りが見えたが、後半は一気に引き離された。
慶應大は4Qに大量リードを得ると、控えの下級生とベンチ入りしている4年生たちに出場機会を与えた。慶應大の控えは日本大のベンチほど華やかで能力ある選手たちではない。だが4年生はゴールデン世代の年に1年生として竹内公輔(現アイシン)や酒井泰滋(現日立)のような代表レベルの選手に学んだ。そして翌年2部降格という地獄を見ながら、また再び頂点に立つ力を勝ち得たチームを下支えしてきた慶應の土台となる面々だ。“一握りの全国区と無名の努力家たち”。その両者が融合し、“チーム”であることこそが慶應大そのものであり、他チームと全く違う存在意義でもある。それを象徴するような選手である#8石井(4年・GF)が、終盤に全員を沸き返らせるシュートを沈め、#16神田智浩(4年・G)もゴールに向かう姿勢を見せて119点で勝利を締めくくった。
写真:試合が終了し笑顔の4年生。小林、石井、店橋、神田智浩、そして主将の田上。12人の4年生を代表した5人が、やるべきことをやった最終戦だった。
※試合のレポートと慶應大・田上選手、小林選手、筑波大・片峯選手、本井選手のインタビューは「続きを読む」へ。
ゲームの入りは第1戦と全く違っていた。#16二ノ宮(3年・G)が#7岩下(3年・C)へアシストを出し、#4田上(4年・F)のシュートが続く。このいくつかのプレーで慶應大が既に立ち直っていることが見て取れた。筑波大は効果を発揮したゾーンを採用し、慶應大のターンオーバーを誘う。また、得点では#36本井(3年・C)のミドルシュートや#7佐々木(4年・G)のドライブもあって思い切りの良さを持続している積極性が見える。慶應大は#16二ノ宮が速攻からバスケットカウントを獲得すると#14酒井(3年・F)が得点に、アシストにと絡んで開始4分で6点のリード。結局ここから試合終了まで筑波大には追いつかせなかった。筑波大はリードを奪われると自身のプレーを少しずつ見失っていく。トラベリングやターンオーバーでミスが出て反対に慶應大には一気に10点差をつけられる。#13片峯(4年・G)のスティールや#34田渡(2年・G)の3Pもあるが、1Qでつけられた点差は13。第1戦とは全く逆の展開となった。
2Q、ゾーンの前にやはり慶應大のオフェンスはスムーズではない。筑波大はディフェンスリバウンドをもぎ取ると次々とシュートにつなげて追い上げる。それでも、点差は10点前後を行き来して逆転にはいたらない。筑波大は#36本井がインサイドでは得点できない分、アウトサイドのタッチが好調。これには#7岩下も対処しきれない。だが得点の優位は揺るがず、慶應大が最後2.2秒のスローインから#7岩下が押し込み、前半を55-41とリードして終えた。
3Q、筑波大のゾーンはもはや慶應大にとって脅威ではなかった。まず#4田上がタップでこぼれたシュートを押し込むと、次第に足も出始めて怒濤の攻撃で一気に20点のリードを奪う。リバウンドでも#7岩下が圧倒した。慶應大は開始5分で#10店橋(4年・G)に出番を与える余裕を見せ、なおも慶應大の攻撃は続く。#20家治(2年・PF)が2連続のシュートを決めると、#10店橋の3Pも出て慶應大は大歓声。筑波大は攻撃が単発になるのと同時に、ファウルがかさみ始める。#45鹿野(4年・F)のシュートで粘るが、3Qは慶應大が大差をつけた。
4Q、筑波大は開始5分間ノーゴールと完全な沈黙に陥る。慶應大はオフェンスリバウンドから#4田上が決め、エース#5小林(4年・GF)が再三のスティールから得点する。残り4分半で慶應大は次々に控えを投入。筑波大も最後の意地を見せてプレスからターンオーバーを奪って得点するが、もう既に遅い。97点まで追い上げるが慶應大は既に120点に届こうとしていた。残り1分、慶應大は登録6人のうち5人の4年生がコートにいた。#10店橋の3Pに#8石井のミドルシュートが続いて全員が大喝采。ブザーが鳴り響いた瞬間には全員の顔に笑顔が浮かんでいた。優勝の夢は絶たれたが、最後の代々木を勝利で締めくくった。
慶應大は準優勝。それは目指していたポジションではないが、彼らに力があることに異を唱える者はいまい。特に、初週までにトップのモードにコンディションを整え、青学大や東海大との戦いでリーグのレベルを高い位置に設定し、他チームに示した功績は大きい。全チームが目の色を変えて慶應大に挑み、1部リーグは久しぶりに全くだれることのない7週間となった。その序盤のコンディショニングが終盤に向けて下降線をたどる一因になったことは確かだが、それもまた彼らの新しい課題でもある。チームの前にはまた新しく登る階段が設定されたのだ。先が見いだせるのはチームにとって決して悪いことではない。
筑波大は一週間後に順位決定戦に挑む。降格はないが、強者が揃った今年の1部リーグで得たものは決して小さくないはずだ。2部チームにその経験値を見せられるような戦いができなければ、一足先に1部に昇格してきた意味はない。試合経験が少ないとされた下級生たちはこの2ヶ月で随分たくましくなった。慶應大に対して見せたような堂々とした戦いぶりを、自動昇格のチームに“これが1部だ”と示したい。彼らのリーグ戦はまだ終わっていない。2ヶ月の総決算となる戦いが最後に待つ。
表彰式の後、なごやかな空気の中で各チームの集合写真撮影が終わった後も、最後までコートに残っていたのは慶應大だった。4年生にとって、現役として代々木の床を踏むのはこれが最後になる。リーグ戦では2年ぶりに帰ってきた代々木第二のコート。4度の早慶戦や降格、昇格の入れ替え戦、延世大との定期戦や昨年のインカレなど、1部チームのどこよりも数多く歓喜と失望を味わう現場となった愛着のある場所だ。
「もう最後か」。口々に言いながら少し緑色のはげた床を確かめ、名残惜しそうに感触を味わっていた4年生たち。最後に深々と礼をし、コートに別れと感謝を告げて思い出深い代々木第二体育館を後にした。
写真下:石井が最初に深々とお辞儀をし、それを見ていた4年生たちがどんどん連なって一礼をしていた。
【INTERVIEW】
「1戦目、チームをあんな風に試合に臨ませたのは主将失格」
互いが感謝し融合できるチームに向け、ここから再スタート
◆#4田上和佳(慶應義塾大・4年・F・主将)
長丁場のリーグで、チームのバイオリズムが微妙に狂ってきていることは察知していた。最後の一週間、それを払拭するために小林や二ノ宮にのびのびプレーさせたいと彼なりに練習にも取り組んだが、それを生かせなかったことを第1戦の後で心底悔いていた。
何事も正面から受け止める生真面目さから、主将としてどうあるべきかずっと考え続けてきた。だがどれが主将として正しいかということを考えるよりは、ありのままの自分で主将だと考えることも大事かもしれない。最終戦、積極的にオフェンスリバウンドに飛び込み、チームのカバーをし続けた姿はその一つの答えのようにも思われる。今回、優秀選手賞を初受賞。努力家という点ではどんな才能豊かな選手もかなわないほどの頑張りで、今年慶應の4番を背負うところまで到達した。しかし「自分ではなく、みんなの頑張りにもらったものだと思う」と謙虚さを見せたのが彼らしかった。
チームの長として、新しい課題をもらったリーグ戦となった。だが、逆境こそ慶應大が最大の特徴を発揮するときでもある。最後の答えを出すために、ここからインカレへ向けて田上とチーム全員の新しい戦いがスタートする。
―リーグの後半に行くほど慶應らしさは減っていたように思いますが、最後の最後はこれが慶應だ、という試合でした。自分では最後の出来に関してどう思っていますか?
「僕自身のことを言いますと、今日の試合はキャプテン失格だと思います」
―それはなぜですか?
「今日は一選手として自分のことに集中することを第一においていたかなと感じています。昨日の試合の負けのあとだったので、入りから一人ひとりが自分のことに集中して試合に臨んでいました。負けたあとに佐々木先生に『スタメンはバックアップに感謝をしてプレーしなくてはいけない。精神的な余裕まで持って試合に臨まないから昨日のような試合になるんだ』と言われて、本当にその通りだなと。今日はキャプテンとしてチームをどうこうというよりは、一選手として試合に臨んでいる感じでした」
―でもそれが今日の力強いドライブだったり、オフェンスリバウンドにつながって試合に勝利したと言えるのでは?
「そう思うんですけど、やっぱり昨日の筑波戦の入りをああいう雰囲気にしてしまったというのはキャプテンとして僕が悪い部分というのは絶対にある。ああいう状態で試合に入らせてしまった責任はあると思っています。リーグ戦を通して後半になってみんなの元気だったり、精神的な余裕が少なくなってきたことを感じていました。筑波戦の前になって特にスタメンに鼓舞する声をかけて、すごく意識して練習に臨んでいたんです。それがみんなの伸び伸びとした動きにつながって、噛み合ない感じがなくなるんじゃないかと自分の中で考えてやったことなんですが、それが結果につながらなかった。特に入りのゆるみにつながってしまったんじゃないかと。難しいところではあると思うんですけど、キャプテンとして、一選手として僕自身もすごく課題だと思いますし、昨日の試合の反省をインカレにつなげていかなければいけないと思います」
―試合前のアップなどを見ていると、やはりゆるみのようなものは感じました。でも田上選手だけが背負うのではなく、それは4年生全体の責任でもあると思いますが。
「4年生でも個々の意識の違いはどうしてもあるので、そこは難しい部分でした。でも今日の試合の良かった点というのは、一人ひとりが自分に集中して、その結果周りへの感謝につながったという点だと思うんです。だからすばらしい試合だったと思うんですけど、試合にで出ているメンバーとそうでないメンバーがお互いに感謝できる状態にならなければいけないと思います。特に4年生が。4年生が変われなければチームは絶対に変われないと思うんです。リーグ戦の残り少ない時間では間に合いませんでしたが、あと一ヶ月で浸透させていかなければと感じています。そういったところでしか僕の持ち味は出せないと思うので。ここから新しい課題をインカレまでに解決できるよう、仕切り直します」
「慶應に持ち帰れるものは持ち帰りたい」
声援への感謝でリーグを終え、新たな戦いに挑むエース
◆#5小林大祐(慶應義塾大・4年・GF)
得点王こそ最後に逃したが、敢闘賞と最も印象に残った選手としてMIP賞を受賞。名実ともに大学バスケの顔であることを証明した。
試合を終えた小林の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。これで別れることになる愛すべき代々木のコートに、最後は4年の仲間と一緒に立ったからだ。試合中には厳しい顔つきをし、チームにとって頼もしい得点源であると同時に、時にはセルフィッシュなプレーで決まったチームオフェンスを無視してしまうこともある。その一方、おおらかで情愛深く、涙もろい部分もこうして見せる。アンバランスで一見理解しがたいと思われるが、それがありのままの小林大祐という選手であり、彼の最大の魅力でもある。
慶應を誰よりも愛する彼はチームのために何をも恐れない。多くの選手が疲労や痛みを伴う接触プレーを嫌うが、小林は混み合ったペイント内へも全くひるむことなく突き進み、まさに得点をもぎ取るように奪う。チームと母校に恩返しをしたいという強い感謝の気持ちがその最大の原動力である。インタビューの最後には、「たとえインカレ開催が大阪で、来られない関東の方がいても、いつでもその声援を感じています」と、ここまで応援してくれ、これからもそうであろう人々への感謝を忘れなかった。リーグは惜しくも優勝を逃したが、慶應大に最高の結果をもたらすため、小林は最後の舞台に向けてこれからも突き進んでいくだろう。
―全14試合を終えていかがですか?
「長かったような短かったような。今年のリーグは感慨深いものがありました。4年生で最後というのもありますし、周りからの期待もありましたし、そういういろんな複雑な状況が絡み合ってそう感じたのだと思いますが」
―第1戦は最悪の負けを味わいましたが、最終試合まで見て帰っていましたよね。その時はそこまで悪い表情をしていないと思ったのですが。
「試合を見ていたときは気持ち的には本当にやばくて、一人じゃ何かしでかしそうな気持ちでした。そうしたらOBの方だったり応援に来ていた観客の方だったりが普通に声をかけてくれて。自然に『明日頑張ってください』とか『もっと楽しそうな慶應を見たいです』と言ってくれました。そうしたら『ああ、そんな風に見てくれているんだな』と感じました。だからそう考えると僕らが楽しくない感じでやっていたことが本当に申し訳なくて。結果準優勝ですが、最後は4年生でしっかり締めくくれました。3年生も相当落ち込んでいましたから、そういった意味で4年生が暗いままでやったらダメだと話しましたし、最上級生なので最後は4年生は4年生らしくきっぱりと終われるようにやろうとしたら、今日のような展開が出ました」
―試合中にすっと顔つきが変わったのが分かりました。
「第1戦の負けでふっきれたというのはあります。もう失うものは何もないし、最後なのでしかめっ面でやっても仕方ないですし。笑顔を意識しました。すごく楽しかったですね」
―第1戦の不調の原因は今振り返ると自分では何だったと思いますか?
「やはりちょっと緊張していました。出だしから。これで勝ったらもうほぼ決まりという気持ちで、少しネガティブなところに入ってしまったのも事実です。もし筑波のシュートが当たってきたらとか、接戦になったらとか前夜に考えていたのもあって。気持ちのバランスがふわふわした部分とかしこまった部分が入り交じったような感覚でやっていました」
―どんな力があるチームであっても、力を出せなければ負けるということを見た試合でした。
「力の差があってもああいう負け方をするのは僕らに隙があるということだし、その分筑波が頑張ったということでもある。相手から学ぶべきことはたくさんありますよね。僕らは一番ではないし、あくまで大学の一チームですから」
―二ノ宮選手(#16)が不調に陥ったのは誰も予想できなかったことだと思うのですが。
「今日試合が終わって、あんな二ノ宮は初めて見ました。一番の努力家で気持ちは表面には出さないけど、すごく芯を持っている子なので本当に悔しかったんだと思いますが」
―第1戦のあとは彼は頑に悪い部分を語りませんでした。彼に何かあったというか、気になる部分は4年生としては?
「ちょっとケガもありましたし、打つシュートがうまく入らないし、アシストもみんなと合わなかったのを引きずっていたんだと思います。でも僕は心配していません。インカレまで一ヶ月弱あるし、今回悔しい思いを彼は必ず努力で克服すると思います。そういった意味で信頼感を持っています。でも彼に頼り切っていた部分もあるので、そこは申し訳ないなと。でもセカンドガードとして祐典(#14酒井)もいますし、ここで出た問題を解決するのにチームとして心配はしていません」
―試合後少し涙目だったように思いましたが?
「涙は出ていましたよ。汗でごまかしていましたけど(苦笑)。最後4年生を佐々木先生が出してくれて先生の愛に感謝ですよね。ほかの4年生がシュートを決めてくれて感慨深いものがありました。僕と田上以外の4年はなかなか試合に出られないけれど、逆に僕らが試合に出る分できないことを彼らが率先してやってくれています。それはすごくありがたいなと。自分の貢献の方法を考えてやってくれるというのは僕らにとっては一人ではやってないという感謝の念があるし、一人一役というのはすばらしいことだと思います」
―例えば7月にジャカルタに行っている間も残った4年はチームをまとめるのに頑張っていたようですが。
「メールなどで知りました。正直ジャカルタではこちらも4年は僕と田上の2人だったので僕らもそこまで気をまわす余裕がなかったんですが、後で知ってとても感謝しています」
―あとはインカレが残りますね。
「どういった気持ちで臨めるんだろうと思いますね。でもやはり慶應に持ち帰れるものは持ち帰りたいですね。今回得点王を取れなかったのは残念ですが、持ち帰れば慶應の財産になるじゃないですか。インカレ2連覇という結果は過去の慶應にもないですよね?(※1)そういったチャンスはなかなかこないので、無駄にはしたくないと思います」
※1 実際は第1回~3回まで3連覇という記録がある。しかし昭和24年という終戦間もない時期であり、近代バスケットとしての連覇という意味ではないと考える方が正しいかもしれない。
「皆を気持ちよくプレーさせることが僕の最大の役割」
4年目だからこそ見えたチーム&リーダーの形
◆#13片峯聡太(筑波大・4年・G・主将)
昨シーズンは4年生の中に1人。「去年は自分が自分がという感じだった」と振り返る通り、メインガードとして最高のパフォーマンスをし、チームを勝利に導いていくことが求められていた。
今シーズンは2年下の田渡の成長もあり、求められることはまた変わった。それによってベンチから見守る時間帯も増えた。それでも、自分の役割が何かを常に知っているから、片峯の視点がブレることはない。
1部昇格を決めたとき、片峯は1部リーグで果たしたい2つの目標をあげた。1つは、“二ノ宮に借りを返すこと”。昨年、2部リーグで敗れた分を、1戦目で半分取り戻した。もう1つは、“こいつがいれば安心って思ってもらえるようなガードになること”。これは、昨シーズンであれば“コートにいれば”であっただろうが、今年は彼が“チームにいれば”、周りのプレーヤーが思い切りできるようになってきた。それは片峯がシーズン始めから口にしてきたアグレッシブさを出したバスケットにつながる。
片峯の行動は、全て“答え”につながっている。大学リーグ界屈指の頭脳派ガードでありリーダーのもと、チームは上り調子でリーグを終えた。集大成としてインカレではどんな姿を見せてくれるだろうか。
―この試合は1戦目とは対照的な立ち上がりになってしまいました。
「そうですね…慶應大も昨日ああいう負け方をして、今日は最初から気持ちが入っていたでしょうし、うちもちょっと受けに回ってしまった部分があったと思います。そこは反省点としてこれから改善しないといけないです」
―2~4Qは粘りも見られたのではないでしょうか?
「はい、ゲーム自体は決まってしまっていたかもしれないですが、リーグの総まとめとして、最後まで自分たちのやってきたことをやり切ろうとベンチで話していました。実際そういう風にやれたと思いますし、試合後ああして観客席から拍手をもらえたということは、いい試合ができたということじゃないかなと思います」
―今シーズン、片峯選手は“アグレッシブ”というキーワードを掲げてきましたが、このリーグではどのくらい表現できましたか?
「リーグ序盤は、やはり皆経験がなくて、探り探りやっていたのが中途半端なプレーになってしまってミスにつながる…という悪循環なバスケットだったと思います。そこから、日大との2戦目(第4週)くらいからチームとしてすごくまとまって、本当に試合を重ねるごとに皆すごく思い切ってできるようになりました。特にインサイドの(#36)本井とか、あと(#34)田渡もこのリーグを通してすごく成長しましたし、今後まだまだ伸びると感じています。もちろん自分自身も頑張らないといけないですが、そういう面ではいい終わり方ができた、ベクトルは上向きで終われたんじゃないかなと思います」
―日大との2戦目くらいから手ごたえがあったとのことですが、何かきっかけはあったのですか?
「あの試合は結果としては負けてしまったんですが、日大という強いチーム相手でもずっとついていけていて、しかも出ている5人はもちろんベンチのメンバーも一体となっていたので、“あぁ、いいチームになってきたな”とそこですごく思ったんです。それまで、毎週月曜にミーティングをしていて、“負け試合は上級生のせいだから、本当に思い切ってやろう“と言ってきたんですが、日大戦は会場が東海大で遠かったので1戦目の後皆で泊まったんですね。それでまたミーティングでしっかり話して、思い切ってやろうと再確認できたのが、一体になれたの1つのきっかけだと思います」
―特に昨日の1戦目は、皆の思い切りが最高によかったですね。
「そうですね、あれだけやってくれれば何も言うことはないと思います。自分自身はスタートではなかったですが、相手の起点になる二ノ宮(慶應大#16)を押さえよう、あいつと心中するって覚悟を決めていて、その自分の仕事ができたと思いますし、周りもそれ以上に、(#34)田渡にしても(#7)佐々木にしても、それぞれの仕事が明確になっていて、それが結果として昨日のような成功につながったので、昨日の試合はナイスゲームだったと言えると思います」
―その田渡選手と片峯選手の起用はどのように決めているのですか?それぞれ強みを持っていると思いますが。
「田渡は大きくてスピードがあるので、その方がリングに向かえるし強いと思います。そういう攻撃的なガードとしての田渡の可能性は、僕自身もすごく評価しているし、いいライバルだとも思います。ただ、やはり経験というか、そこは僕がまだ負けていない部分だと思うので、あいつがゲームメイクに苦しんでいるときは僕が出たりしています。ただ、先にも言ったような強みのある田渡は、1番だけじゃなくて2番もできるんです。僕と2ガードみたいな形でもできるので、それも展開を速くする1つの武器だと思っています。そのときは、1番としての役割、2番としての役割をはっきりさせてできればいいなと。田渡ともよくそういう話をします。あいつは素直だし今後がすごく期待される選手でもあるので、僕自身も頑張りつつ手助けみたいな感じで、あと残りの期間をやっていければと思います」
―片峯選手が2年で、4年に吉田周平選手(現JBL2 アイシン・エイ・ダブリュ)がいたときのような感じでしょうか?
「いやー、周平さんはすごくいいガードでしたしいいキャプテンだったので。それに、田渡もまた違うタイプなんですよ。田渡は、もうちょっと厚かましくやってもいいかなと僕は思います。そのカバーを僕ができますし。本当に思い切りやって、失敗してもそこから学んでくれればいいですし、僕もたぶん吉田先生もそれはOKと思っているので、自信を持ってやってほしいですね」
―そのほかにも、今シーズン心掛けていることはありますか?
「チームが勝つために必要だと吉田先生が思うこと、その中で自分が出来ることを考えてやっています。もちろん自分が頑張ることは第一ですが、最上級生だしキャプテンなので、そうやって田渡だけでなく周りにしっかり気を配って、皆を気持ちよくプレーさせることが僕の最大の役割だと思うんです。それは少しずつ果たせてきたかなと思うので、シーズン最後まで続けていきたいです」
―片峯選手と田渡選手の2ガードに加えて、佐々木選手が入った3ガードもリーグ後半は見られるなど、インカレに向けて楽しみも多いですね。
「そうですね、その布陣でシュートが入ればすごくいい流れになると思います。リーグをやっていて思ったのは、強いチームはやっぱりシュートが入るし、逆に入らないといくら強くてもつまづくことがある。なので、僕と田渡でいいリズムを作って、プラス佐々木のシュートがこの2戦のように当たってくれれば、相手は押さえにくいと思います。かつ、そこで本井もだんだんよくなっているので、粘り強くインサイドをやってくれれば、インカレではもっともっとよくなるんじゃないかなと思っています」
伸びしろは未知数
チームの飛躍のために欠かせないインサイドプレイヤー
◆#36本井敏雄(筑波大・3年・C)
ここ数年の筑波大のインサイド陣と言えば、パワータイプの木村(現・三井住友銀行)、巧さのある富田(現・東芝)、この2人の良いところを併せ持った高橋(現・JR東日本秋田)の3選手が記憶に新しい。彼らの卒業後、筑波大のインサイドは一気に若返るが、春先から次々と怪我に見舞われてチームで一番の弱点と思われた。リーグ戦でインサイドを任された本井もまた、春先は怪我に泣き、本格的なデビューは今大会となった。
経験がない中での7週間は勉強になったという。だがむしろ、開花したのはリバウンダーとしてではなくミドルレンジのシュートを武器とした得点力だろう。チームと共に、個人的にも成長を遂げたこのリーグ戦。だが、チームが更なる成長を遂げるために、インサイドプレイヤーとしての成長は今後も求め続けなければならない。これからも本井の進化は筑波大にとって絶対不可欠だ。
―第1戦は勝利したものの、第2戦は敗北という結果になりました。ただ、見ていた感じだと、チームとしては評価できるバスケットをしていたのではと思ったのですが。
「そうですね。悪くは無かったんじゃないかなと。昨日はめっちゃシュートが入ったんでよかったんですけど…今日は、点を取られすぎましたね。うちが90点取れたのは、いつもよりはいいかなって感じなので、やっぱり点を取られすぎたというところが敗因に繋がったと思います」
―マッチアップは岩下選手(慶應大#7)でしたが、いかがでしたか?
「でかいっす…。でも、いい経験になりました。高さについては、外からのシュートとか、ランニングプレーで対応しようと思っていました。特に外からのシュートのときは、高さを変に意識したらシュートが入らないので、あまり意識しないようにはしていました」
―試合中、片峯選手(#13)や鹿野選手(#45)がよく選手を集めて話していますが、どういったことを話しているのですか?
「時と場合によるんですが、基本的にはチームで“共通してやろう”としていることを言ってくれます。個人的には“もっと強くいけ”とか、“逃げずにやれ”ということを言ってもらっています」
―本井選手は、リーグ序盤はインサイドにこだわっていたのかな、と思ったのですが、終盤は外からのプレーが多くなりましたね。
「リーグ終盤へ向けて仕上げてきて、外もちょっと入るようになってきたので、打っていくようにしました。それまでは全然入らなかったので…。全員が外に散ってしまうとインサイドがいなくなってしまうので、やっぱり自分が中をやるようにはしていました。まあ、(インサイドは)できないんですけど…(苦笑)」
―今シーズンは、春は怪我で出場していなくて、これまでも先輩にセンターがたくさんいたので、本格的な出場はリーグ戦からですね。
「今年デビュー戦ですからね(笑)。そういう意味では、学んだことが多かったリーグ戦だったなと感じています。リーグの戦い方にしてもそうだし、7週間っていう長いスパンも初めてだったので、持って行きかたも勉強になりました。あとは、チームとして7週間を通して成長できたっていうのが一番の収穫というか、次にも繋がるのではないかと実感しています」
―こうして、今試合に出ていることは楽しいですか?
「うーん…(笑)。最初はかなりプレッシャーでした。すごい責任を感じてやっていたし、僕、毎試合緊張する人なんで…。でも、だんだんチームとしての役割を果たせるようになってきて、そこからちょっと楽しいとは感じるようにはなりました。でも、まだまだプレッシャーは感じていますね(笑)」
―佐々木選手(#7)もおっしゃっていたんですが、やはりチームとして成長を感じられたリーグとなったようですね。
「そうですね。特にいい試合だったと言われる試合は、“チーム力”で勝ったというか。みんながすごい乗っていたんですよね。そういう試合は“チームで戦っているな”と実際に感じてしました。個人的には自分ではあまりよくわからないです。でも、最初に比べたらちょっとはうまくなったんじゃないですかね…?多分」
―リーグを通して、先行したときはそのままリードを保って勝てるけれど、ビハインドで追う展開になったときに追い上げはするけれども、追いつけずにそのまま負けてしまうケースが多かったのではないかなと感じたのですが。
「確かに…。それは課題ですね。負けた試合は追いつかずに負けたし、勝った試合は先行して点差をある程度離して、それを保った試合でしたね。ただ、昨日の慶應戦みたいに、ビハインドになってもチームで“1本1本返していこう”って言っているので、そういう意味では、昨日の試合はビハインド状態から1本1本返していくという形が出来つつあったんじゃないかなと」
―さて、次は拓殖大との順位決定戦になりましたね。
「吉田先生(吉田監督)に言われたんですが、順位決定戦に持っていくというよりは、その次のインカレへ向けて仕上げていこうという感じなので、もちろん順位決定戦も大事なんですが、先を見越して今後も練習していきたいと思います。インカレでは、去年早々に負けているだけに、結果を残したいですね。“いい試合だった”で終わるんじゃなくて、結果としてチームとして何かを残せたらいいなと。個人的には、インカレでは魅せていきたいと思います」
最後は4年生への花道となる100点ゲームで幕
慶應義塾大119(34-20,21-21,27-24,37-32)97筑波大

アップを行う慶應大の選手たちの顔には、一夜明けてもやはり前日のショックを隠しきれない固さが浮かんでいた。しかし、試合が始まると次第に本来の姿を取り戻す様子がはっきりと分かった。
試合の出足はやや固さが見えた。筑波大のゾーンは効果的で、慶應大はトップギアの軽快なオフェンスとは言えないが、それでも第1戦と違っていたのはシュートの確実性。#16二ノ宮(3年・G)のアシストや#7岩下(3年・C)のインサイド、#16二ノ宮の速攻などでリズムを作り、#14酒井(3年・F)のアウトサイドも当たって1Qで34得点。慶應大らしいゲームの数字を出して見せた。筑波大も第1戦の勝利で自信を持ったプレーが見えたが、実力で勝る慶應大がやはり上だった。前半は粘りが見えたが、後半は一気に引き離された。
慶應大は4Qに大量リードを得ると、控えの下級生とベンチ入りしている4年生たちに出場機会を与えた。慶應大の控えは日本大のベンチほど華やかで能力ある選手たちではない。だが4年生はゴールデン世代の年に1年生として竹内公輔(現アイシン)や酒井泰滋(現日立)のような代表レベルの選手に学んだ。そして翌年2部降格という地獄を見ながら、また再び頂点に立つ力を勝ち得たチームを下支えしてきた慶應の土台となる面々だ。“一握りの全国区と無名の努力家たち”。その両者が融合し、“チーム”であることこそが慶應大そのものであり、他チームと全く違う存在意義でもある。それを象徴するような選手である#8石井(4年・GF)が、終盤に全員を沸き返らせるシュートを沈め、#16神田智浩(4年・G)もゴールに向かう姿勢を見せて119点で勝利を締めくくった。
写真:試合が終了し笑顔の4年生。小林、石井、店橋、神田智浩、そして主将の田上。12人の4年生を代表した5人が、やるべきことをやった最終戦だった。
※試合のレポートと慶應大・田上選手、小林選手、筑波大・片峯選手、本井選手のインタビューは「続きを読む」へ。
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【GAME REPORT】
2Q、ゾーンの前にやはり慶應大のオフェンスはスムーズではない。筑波大はディフェンスリバウンドをもぎ取ると次々とシュートにつなげて追い上げる。それでも、点差は10点前後を行き来して逆転にはいたらない。筑波大は#36本井がインサイドでは得点できない分、アウトサイドのタッチが好調。これには#7岩下も対処しきれない。だが得点の優位は揺るがず、慶應大が最後2.2秒のスローインから#7岩下が押し込み、前半を55-41とリードして終えた。

4Q、筑波大は開始5分間ノーゴールと完全な沈黙に陥る。慶應大はオフェンスリバウンドから#4田上が決め、エース#5小林(4年・GF)が再三のスティールから得点する。残り4分半で慶應大は次々に控えを投入。筑波大も最後の意地を見せてプレスからターンオーバーを奪って得点するが、もう既に遅い。97点まで追い上げるが慶應大は既に120点に届こうとしていた。残り1分、慶應大は登録6人のうち5人の4年生がコートにいた。#10店橋の3Pに#8石井のミドルシュートが続いて全員が大喝采。ブザーが鳴り響いた瞬間には全員の顔に笑顔が浮かんでいた。優勝の夢は絶たれたが、最後の代々木を勝利で締めくくった。
慶應大は準優勝。それは目指していたポジションではないが、彼らに力があることに異を唱える者はいまい。特に、初週までにトップのモードにコンディションを整え、青学大や東海大との戦いでリーグのレベルを高い位置に設定し、他チームに示した功績は大きい。全チームが目の色を変えて慶應大に挑み、1部リーグは久しぶりに全くだれることのない7週間となった。その序盤のコンディショニングが終盤に向けて下降線をたどる一因になったことは確かだが、それもまた彼らの新しい課題でもある。チームの前にはまた新しく登る階段が設定されたのだ。先が見いだせるのはチームにとって決して悪いことではない。
筑波大は一週間後に順位決定戦に挑む。降格はないが、強者が揃った今年の1部リーグで得たものは決して小さくないはずだ。2部チームにその経験値を見せられるような戦いができなければ、一足先に1部に昇格してきた意味はない。試合経験が少ないとされた下級生たちはこの2ヶ月で随分たくましくなった。慶應大に対して見せたような堂々とした戦いぶりを、自動昇格のチームに“これが1部だ”と示したい。彼らのリーグ戦はまだ終わっていない。2ヶ月の総決算となる戦いが最後に待つ。

「もう最後か」。口々に言いながら少し緑色のはげた床を確かめ、名残惜しそうに感触を味わっていた4年生たち。最後に深々と礼をし、コートに別れと感謝を告げて思い出深い代々木第二体育館を後にした。
写真下:石井が最初に深々とお辞儀をし、それを見ていた4年生たちがどんどん連なって一礼をしていた。
【INTERVIEW】
「1戦目、チームをあんな風に試合に臨ませたのは主将失格」
互いが感謝し融合できるチームに向け、ここから再スタート
◆#4田上和佳(慶應義塾大・4年・F・主将)

何事も正面から受け止める生真面目さから、主将としてどうあるべきかずっと考え続けてきた。だがどれが主将として正しいかということを考えるよりは、ありのままの自分で主将だと考えることも大事かもしれない。最終戦、積極的にオフェンスリバウンドに飛び込み、チームのカバーをし続けた姿はその一つの答えのようにも思われる。今回、優秀選手賞を初受賞。努力家という点ではどんな才能豊かな選手もかなわないほどの頑張りで、今年慶應の4番を背負うところまで到達した。しかし「自分ではなく、みんなの頑張りにもらったものだと思う」と謙虚さを見せたのが彼らしかった。
チームの長として、新しい課題をもらったリーグ戦となった。だが、逆境こそ慶應大が最大の特徴を発揮するときでもある。最後の答えを出すために、ここからインカレへ向けて田上とチーム全員の新しい戦いがスタートする。
―リーグの後半に行くほど慶應らしさは減っていたように思いますが、最後の最後はこれが慶應だ、という試合でした。自分では最後の出来に関してどう思っていますか?
「僕自身のことを言いますと、今日の試合はキャプテン失格だと思います」
―それはなぜですか?
「今日は一選手として自分のことに集中することを第一においていたかなと感じています。昨日の試合の負けのあとだったので、入りから一人ひとりが自分のことに集中して試合に臨んでいました。負けたあとに佐々木先生に『スタメンはバックアップに感謝をしてプレーしなくてはいけない。精神的な余裕まで持って試合に臨まないから昨日のような試合になるんだ』と言われて、本当にその通りだなと。今日はキャプテンとしてチームをどうこうというよりは、一選手として試合に臨んでいる感じでした」
―でもそれが今日の力強いドライブだったり、オフェンスリバウンドにつながって試合に勝利したと言えるのでは?
「そう思うんですけど、やっぱり昨日の筑波戦の入りをああいう雰囲気にしてしまったというのはキャプテンとして僕が悪い部分というのは絶対にある。ああいう状態で試合に入らせてしまった責任はあると思っています。リーグ戦を通して後半になってみんなの元気だったり、精神的な余裕が少なくなってきたことを感じていました。筑波戦の前になって特にスタメンに鼓舞する声をかけて、すごく意識して練習に臨んでいたんです。それがみんなの伸び伸びとした動きにつながって、噛み合ない感じがなくなるんじゃないかと自分の中で考えてやったことなんですが、それが結果につながらなかった。特に入りのゆるみにつながってしまったんじゃないかと。難しいところではあると思うんですけど、キャプテンとして、一選手として僕自身もすごく課題だと思いますし、昨日の試合の反省をインカレにつなげていかなければいけないと思います」
―試合前のアップなどを見ていると、やはりゆるみのようなものは感じました。でも田上選手だけが背負うのではなく、それは4年生全体の責任でもあると思いますが。
「4年生でも個々の意識の違いはどうしてもあるので、そこは難しい部分でした。でも今日の試合の良かった点というのは、一人ひとりが自分に集中して、その結果周りへの感謝につながったという点だと思うんです。だからすばらしい試合だったと思うんですけど、試合にで出ているメンバーとそうでないメンバーがお互いに感謝できる状態にならなければいけないと思います。特に4年生が。4年生が変われなければチームは絶対に変われないと思うんです。リーグ戦の残り少ない時間では間に合いませんでしたが、あと一ヶ月で浸透させていかなければと感じています。そういったところでしか僕の持ち味は出せないと思うので。ここから新しい課題をインカレまでに解決できるよう、仕切り直します」
「慶應に持ち帰れるものは持ち帰りたい」
声援への感謝でリーグを終え、新たな戦いに挑むエース
◆#5小林大祐(慶應義塾大・4年・GF)

試合を終えた小林の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。これで別れることになる愛すべき代々木のコートに、最後は4年の仲間と一緒に立ったからだ。試合中には厳しい顔つきをし、チームにとって頼もしい得点源であると同時に、時にはセルフィッシュなプレーで決まったチームオフェンスを無視してしまうこともある。その一方、おおらかで情愛深く、涙もろい部分もこうして見せる。アンバランスで一見理解しがたいと思われるが、それがありのままの小林大祐という選手であり、彼の最大の魅力でもある。
慶應を誰よりも愛する彼はチームのために何をも恐れない。多くの選手が疲労や痛みを伴う接触プレーを嫌うが、小林は混み合ったペイント内へも全くひるむことなく突き進み、まさに得点をもぎ取るように奪う。チームと母校に恩返しをしたいという強い感謝の気持ちがその最大の原動力である。インタビューの最後には、「たとえインカレ開催が大阪で、来られない関東の方がいても、いつでもその声援を感じています」と、ここまで応援してくれ、これからもそうであろう人々への感謝を忘れなかった。リーグは惜しくも優勝を逃したが、慶應大に最高の結果をもたらすため、小林は最後の舞台に向けてこれからも突き進んでいくだろう。
―全14試合を終えていかがですか?
「長かったような短かったような。今年のリーグは感慨深いものがありました。4年生で最後というのもありますし、周りからの期待もありましたし、そういういろんな複雑な状況が絡み合ってそう感じたのだと思いますが」
―第1戦は最悪の負けを味わいましたが、最終試合まで見て帰っていましたよね。その時はそこまで悪い表情をしていないと思ったのですが。
「試合を見ていたときは気持ち的には本当にやばくて、一人じゃ何かしでかしそうな気持ちでした。そうしたらOBの方だったり応援に来ていた観客の方だったりが普通に声をかけてくれて。自然に『明日頑張ってください』とか『もっと楽しそうな慶應を見たいです』と言ってくれました。そうしたら『ああ、そんな風に見てくれているんだな』と感じました。だからそう考えると僕らが楽しくない感じでやっていたことが本当に申し訳なくて。結果準優勝ですが、最後は4年生でしっかり締めくくれました。3年生も相当落ち込んでいましたから、そういった意味で4年生が暗いままでやったらダメだと話しましたし、最上級生なので最後は4年生は4年生らしくきっぱりと終われるようにやろうとしたら、今日のような展開が出ました」
―試合中にすっと顔つきが変わったのが分かりました。
「第1戦の負けでふっきれたというのはあります。もう失うものは何もないし、最後なのでしかめっ面でやっても仕方ないですし。笑顔を意識しました。すごく楽しかったですね」
―第1戦の不調の原因は今振り返ると自分では何だったと思いますか?
「やはりちょっと緊張していました。出だしから。これで勝ったらもうほぼ決まりという気持ちで、少しネガティブなところに入ってしまったのも事実です。もし筑波のシュートが当たってきたらとか、接戦になったらとか前夜に考えていたのもあって。気持ちのバランスがふわふわした部分とかしこまった部分が入り交じったような感覚でやっていました」
―どんな力があるチームであっても、力を出せなければ負けるということを見た試合でした。
「力の差があってもああいう負け方をするのは僕らに隙があるということだし、その分筑波が頑張ったということでもある。相手から学ぶべきことはたくさんありますよね。僕らは一番ではないし、あくまで大学の一チームですから」
―二ノ宮選手(#16)が不調に陥ったのは誰も予想できなかったことだと思うのですが。
「今日試合が終わって、あんな二ノ宮は初めて見ました。一番の努力家で気持ちは表面には出さないけど、すごく芯を持っている子なので本当に悔しかったんだと思いますが」
―第1戦のあとは彼は頑に悪い部分を語りませんでした。彼に何かあったというか、気になる部分は4年生としては?
「ちょっとケガもありましたし、打つシュートがうまく入らないし、アシストもみんなと合わなかったのを引きずっていたんだと思います。でも僕は心配していません。インカレまで一ヶ月弱あるし、今回悔しい思いを彼は必ず努力で克服すると思います。そういった意味で信頼感を持っています。でも彼に頼り切っていた部分もあるので、そこは申し訳ないなと。でもセカンドガードとして祐典(#14酒井)もいますし、ここで出た問題を解決するのにチームとして心配はしていません」
―試合後少し涙目だったように思いましたが?
「涙は出ていましたよ。汗でごまかしていましたけど(苦笑)。最後4年生を佐々木先生が出してくれて先生の愛に感謝ですよね。ほかの4年生がシュートを決めてくれて感慨深いものがありました。僕と田上以外の4年はなかなか試合に出られないけれど、逆に僕らが試合に出る分できないことを彼らが率先してやってくれています。それはすごくありがたいなと。自分の貢献の方法を考えてやってくれるというのは僕らにとっては一人ではやってないという感謝の念があるし、一人一役というのはすばらしいことだと思います」
―例えば7月にジャカルタに行っている間も残った4年はチームをまとめるのに頑張っていたようですが。
「メールなどで知りました。正直ジャカルタではこちらも4年は僕と田上の2人だったので僕らもそこまで気をまわす余裕がなかったんですが、後で知ってとても感謝しています」
―あとはインカレが残りますね。
「どういった気持ちで臨めるんだろうと思いますね。でもやはり慶應に持ち帰れるものは持ち帰りたいですね。今回得点王を取れなかったのは残念ですが、持ち帰れば慶應の財産になるじゃないですか。インカレ2連覇という結果は過去の慶應にもないですよね?(※1)そういったチャンスはなかなかこないので、無駄にはしたくないと思います」
※1 実際は第1回~3回まで3連覇という記録がある。しかし昭和24年という終戦間もない時期であり、近代バスケットとしての連覇という意味ではないと考える方が正しいかもしれない。
「皆を気持ちよくプレーさせることが僕の最大の役割」
4年目だからこそ見えたチーム&リーダーの形
◆#13片峯聡太(筑波大・4年・G・主将)

今シーズンは2年下の田渡の成長もあり、求められることはまた変わった。それによってベンチから見守る時間帯も増えた。それでも、自分の役割が何かを常に知っているから、片峯の視点がブレることはない。
1部昇格を決めたとき、片峯は1部リーグで果たしたい2つの目標をあげた。1つは、“二ノ宮に借りを返すこと”。昨年、2部リーグで敗れた分を、1戦目で半分取り戻した。もう1つは、“こいつがいれば安心って思ってもらえるようなガードになること”。これは、昨シーズンであれば“コートにいれば”であっただろうが、今年は彼が“チームにいれば”、周りのプレーヤーが思い切りできるようになってきた。それは片峯がシーズン始めから口にしてきたアグレッシブさを出したバスケットにつながる。
片峯の行動は、全て“答え”につながっている。大学リーグ界屈指の頭脳派ガードでありリーダーのもと、チームは上り調子でリーグを終えた。集大成としてインカレではどんな姿を見せてくれるだろうか。
―この試合は1戦目とは対照的な立ち上がりになってしまいました。
「そうですね…慶應大も昨日ああいう負け方をして、今日は最初から気持ちが入っていたでしょうし、うちもちょっと受けに回ってしまった部分があったと思います。そこは反省点としてこれから改善しないといけないです」
―2~4Qは粘りも見られたのではないでしょうか?
「はい、ゲーム自体は決まってしまっていたかもしれないですが、リーグの総まとめとして、最後まで自分たちのやってきたことをやり切ろうとベンチで話していました。実際そういう風にやれたと思いますし、試合後ああして観客席から拍手をもらえたということは、いい試合ができたということじゃないかなと思います」
―今シーズン、片峯選手は“アグレッシブ”というキーワードを掲げてきましたが、このリーグではどのくらい表現できましたか?
「リーグ序盤は、やはり皆経験がなくて、探り探りやっていたのが中途半端なプレーになってしまってミスにつながる…という悪循環なバスケットだったと思います。そこから、日大との2戦目(第4週)くらいからチームとしてすごくまとまって、本当に試合を重ねるごとに皆すごく思い切ってできるようになりました。特にインサイドの(#36)本井とか、あと(#34)田渡もこのリーグを通してすごく成長しましたし、今後まだまだ伸びると感じています。もちろん自分自身も頑張らないといけないですが、そういう面ではいい終わり方ができた、ベクトルは上向きで終われたんじゃないかなと思います」
―日大との2戦目くらいから手ごたえがあったとのことですが、何かきっかけはあったのですか?
「あの試合は結果としては負けてしまったんですが、日大という強いチーム相手でもずっとついていけていて、しかも出ている5人はもちろんベンチのメンバーも一体となっていたので、“あぁ、いいチームになってきたな”とそこですごく思ったんです。それまで、毎週月曜にミーティングをしていて、“負け試合は上級生のせいだから、本当に思い切ってやろう“と言ってきたんですが、日大戦は会場が東海大で遠かったので1戦目の後皆で泊まったんですね。それでまたミーティングでしっかり話して、思い切ってやろうと再確認できたのが、一体になれたの1つのきっかけだと思います」
―特に昨日の1戦目は、皆の思い切りが最高によかったですね。
「そうですね、あれだけやってくれれば何も言うことはないと思います。自分自身はスタートではなかったですが、相手の起点になる二ノ宮(慶應大#16)を押さえよう、あいつと心中するって覚悟を決めていて、その自分の仕事ができたと思いますし、周りもそれ以上に、(#34)田渡にしても(#7)佐々木にしても、それぞれの仕事が明確になっていて、それが結果として昨日のような成功につながったので、昨日の試合はナイスゲームだったと言えると思います」
―その田渡選手と片峯選手の起用はどのように決めているのですか?それぞれ強みを持っていると思いますが。
「田渡は大きくてスピードがあるので、その方がリングに向かえるし強いと思います。そういう攻撃的なガードとしての田渡の可能性は、僕自身もすごく評価しているし、いいライバルだとも思います。ただ、やはり経験というか、そこは僕がまだ負けていない部分だと思うので、あいつがゲームメイクに苦しんでいるときは僕が出たりしています。ただ、先にも言ったような強みのある田渡は、1番だけじゃなくて2番もできるんです。僕と2ガードみたいな形でもできるので、それも展開を速くする1つの武器だと思っています。そのときは、1番としての役割、2番としての役割をはっきりさせてできればいいなと。田渡ともよくそういう話をします。あいつは素直だし今後がすごく期待される選手でもあるので、僕自身も頑張りつつ手助けみたいな感じで、あと残りの期間をやっていければと思います」
―片峯選手が2年で、4年に吉田周平選手(現JBL2 アイシン・エイ・ダブリュ)がいたときのような感じでしょうか?
「いやー、周平さんはすごくいいガードでしたしいいキャプテンだったので。それに、田渡もまた違うタイプなんですよ。田渡は、もうちょっと厚かましくやってもいいかなと僕は思います。そのカバーを僕ができますし。本当に思い切りやって、失敗してもそこから学んでくれればいいですし、僕もたぶん吉田先生もそれはOKと思っているので、自信を持ってやってほしいですね」
―そのほかにも、今シーズン心掛けていることはありますか?
「チームが勝つために必要だと吉田先生が思うこと、その中で自分が出来ることを考えてやっています。もちろん自分が頑張ることは第一ですが、最上級生だしキャプテンなので、そうやって田渡だけでなく周りにしっかり気を配って、皆を気持ちよくプレーさせることが僕の最大の役割だと思うんです。それは少しずつ果たせてきたかなと思うので、シーズン最後まで続けていきたいです」
―片峯選手と田渡選手の2ガードに加えて、佐々木選手が入った3ガードもリーグ後半は見られるなど、インカレに向けて楽しみも多いですね。
「そうですね、その布陣でシュートが入ればすごくいい流れになると思います。リーグをやっていて思ったのは、強いチームはやっぱりシュートが入るし、逆に入らないといくら強くてもつまづくことがある。なので、僕と田渡でいいリズムを作って、プラス佐々木のシュートがこの2戦のように当たってくれれば、相手は押さえにくいと思います。かつ、そこで本井もだんだんよくなっているので、粘り強くインサイドをやってくれれば、インカレではもっともっとよくなるんじゃないかなと思っています」
伸びしろは未知数
チームの飛躍のために欠かせないインサイドプレイヤー
◆#36本井敏雄(筑波大・3年・C)

経験がない中での7週間は勉強になったという。だがむしろ、開花したのはリバウンダーとしてではなくミドルレンジのシュートを武器とした得点力だろう。チームと共に、個人的にも成長を遂げたこのリーグ戦。だが、チームが更なる成長を遂げるために、インサイドプレイヤーとしての成長は今後も求め続けなければならない。これからも本井の進化は筑波大にとって絶対不可欠だ。
―第1戦は勝利したものの、第2戦は敗北という結果になりました。ただ、見ていた感じだと、チームとしては評価できるバスケットをしていたのではと思ったのですが。
「そうですね。悪くは無かったんじゃないかなと。昨日はめっちゃシュートが入ったんでよかったんですけど…今日は、点を取られすぎましたね。うちが90点取れたのは、いつもよりはいいかなって感じなので、やっぱり点を取られすぎたというところが敗因に繋がったと思います」
―マッチアップは岩下選手(慶應大#7)でしたが、いかがでしたか?
「でかいっす…。でも、いい経験になりました。高さについては、外からのシュートとか、ランニングプレーで対応しようと思っていました。特に外からのシュートのときは、高さを変に意識したらシュートが入らないので、あまり意識しないようにはしていました」
―試合中、片峯選手(#13)や鹿野選手(#45)がよく選手を集めて話していますが、どういったことを話しているのですか?
「時と場合によるんですが、基本的にはチームで“共通してやろう”としていることを言ってくれます。個人的には“もっと強くいけ”とか、“逃げずにやれ”ということを言ってもらっています」
―本井選手は、リーグ序盤はインサイドにこだわっていたのかな、と思ったのですが、終盤は外からのプレーが多くなりましたね。
「リーグ終盤へ向けて仕上げてきて、外もちょっと入るようになってきたので、打っていくようにしました。それまでは全然入らなかったので…。全員が外に散ってしまうとインサイドがいなくなってしまうので、やっぱり自分が中をやるようにはしていました。まあ、(インサイドは)できないんですけど…(苦笑)」
―今シーズンは、春は怪我で出場していなくて、これまでも先輩にセンターがたくさんいたので、本格的な出場はリーグ戦からですね。
「今年デビュー戦ですからね(笑)。そういう意味では、学んだことが多かったリーグ戦だったなと感じています。リーグの戦い方にしてもそうだし、7週間っていう長いスパンも初めてだったので、持って行きかたも勉強になりました。あとは、チームとして7週間を通して成長できたっていうのが一番の収穫というか、次にも繋がるのではないかと実感しています」
―こうして、今試合に出ていることは楽しいですか?
「うーん…(笑)。最初はかなりプレッシャーでした。すごい責任を感じてやっていたし、僕、毎試合緊張する人なんで…。でも、だんだんチームとしての役割を果たせるようになってきて、そこからちょっと楽しいとは感じるようにはなりました。でも、まだまだプレッシャーは感じていますね(笑)」
―佐々木選手(#7)もおっしゃっていたんですが、やはりチームとして成長を感じられたリーグとなったようですね。
「そうですね。特にいい試合だったと言われる試合は、“チーム力”で勝ったというか。みんながすごい乗っていたんですよね。そういう試合は“チームで戦っているな”と実際に感じてしました。個人的には自分ではあまりよくわからないです。でも、最初に比べたらちょっとはうまくなったんじゃないですかね…?多分」
―リーグを通して、先行したときはそのままリードを保って勝てるけれど、ビハインドで追う展開になったときに追い上げはするけれども、追いつけずにそのまま負けてしまうケースが多かったのではないかなと感じたのですが。
「確かに…。それは課題ですね。負けた試合は追いつかずに負けたし、勝った試合は先行して点差をある程度離して、それを保った試合でしたね。ただ、昨日の慶應戦みたいに、ビハインドになってもチームで“1本1本返していこう”って言っているので、そういう意味では、昨日の試合はビハインド状態から1本1本返していくという形が出来つつあったんじゃないかなと」
―さて、次は拓殖大との順位決定戦になりましたね。
「吉田先生(吉田監督)に言われたんですが、順位決定戦に持っていくというよりは、その次のインカレへ向けて仕上げていこうという感じなので、もちろん順位決定戦も大事なんですが、先を見越して今後も練習していきたいと思います。インカレでは、去年早々に負けているだけに、結果を残したいですね。“いい試合だった”で終わるんじゃなくて、結果としてチームとして何かを残せたらいいなと。個人的には、インカレでは魅せていきたいと思います」
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