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第86回全日本大学バスケットボール選手権
筑波大学が3連覇を達成 3連覇以上の達成は1999年の日本体育大以来

2009.05.31 (Sun)

【2009トーナメント】5/31 決勝 東海大VS慶應義塾大

息をつかせぬ激闘を制した慶應大が逆転劇で優勝
東海大も粘り、秋シーズンの大学界充実は必至

東海大学93(25-19,21-26,18-24,29-26)95慶應義塾大学
090531keio1_20090604092853.jpg40年ぶりの慶應大と、初進出の東海大。誰もが期待した好カードによる決勝は、最後の一瞬まで分からない勝負となった。

バスケットは瞬時の判断の積み重ねが形作る競技であり、選手も監督も40分という試合時間の間、0コンマ何秒という世界でそれをし続けなければならない。こうしたシビア且つ、勝負の醍醐味を決勝の舞台でこれほど面白く感じさせてくれる試合は、そうそう実現するものではない。

何度となく試合のポイントが積み重なり、リードが入れ替わった戦いは、最後に真っ向勝負からのブロックショットという劇的な幕引きを迎えた。勝負を制したのは慶應大。ミスも多く、反省は多いだろうがそれでも最初のピンチから最後の一瞬まで精神的に揺るがなかったのは、彼らが勝負際で発揮するとてつもない集中力と、ここまで積み上げてきた経験値によるものが大きい。しかし、それに対する東海大もまた、決してあきらめない姿勢を示し続けた。

春の頂上決戦は、単なる好勝負というよりは今シーズンの大学界全体の充実を予測させるとともに、観客の心に強い印象を残すことになった。タレント揃いで強豪チームがひしめく今年、どういうチームが勝者であることがふさわしいか学生王者である慶應大がまず示した。今後更に追われる存在となった彼らがどう戦い、何を見せるかといった楽しみとともに、それに続く他チームのプライドもまた楽しめるシーズンが秋に続く。

※試合のレポートと慶應大・酒井選手、東海大・前村選手のインタビューは「続きを読む」へ。

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先攻リードしたのは東海大
慶應大は#4田上が1Qで3ファウルに


090531mituhara.jpg立ち上がり、慶應大は東海大のプレッシャーの前にこれまでのように簡単にオフェンスが展開できずにターンオーバーが続く。「速攻なのに違う攻めの動きをしていて、ちぐはぐだった」(#4田上)いうように、動きが噛み合わない。#16二ノ宮(3年・G)が大声で「ディフェンス、ディフェンス!」と声をあげるが、その二ノ宮の足も止まりがちとなっている。一方の東海大は開始こそもたついたものの、エースである#24古川(4年・F)のアウトサイド、#7遥(3年・PF)のドライブが決まると波に乗った。慶應大が苦しいシュートに行くのに対し、アウトサイドをやすやすと決め、一気に10点のリード。慶應大は#7岩下(3年・C)が#0満原(2年・C)に対して中で勝負できずミドルシュートを打ち、また#14酒井(3年・F)が速攻を出すものの、#17前村のルーズボールファウルで得たフリースローを2本とも落とすミス。ここに始まるフリースローミスの悪循環は、最後の最後まで慶應大に自ら跳ね返る負担となる。しかも#7遥にマッチアップしている#4田上が残り2:50でなんと3つ目のファウルを犯し、にわかに暗雲がたちこめたかに見えた。「彼(#7遥)の動きは分かっていた。けれど、やってしまった」(#4田上)と反省する。しかし、佐々木HCは焦らない。「向こうが目一杯でやってきているのが分かったし、ファウルはそれだけディフェンスをやっているということ」と考え、1分後にフリースローを得た時点で#12金岡(3年・F)を交代で送り込み、残りの30秒で#20家治(2年・PF)に替える。使い続ける考えもあったが、「一番練習でも頑張っている田上を失うと混乱する可能性がある」と、判断した。その間に#5小林(4年・G/F)がこちらも交代した東海大の#46大塚(4年・SF)からバスケットカウントを奪い、更には#0満原が3秒を犯すと今度は3Pを沈める。東海大は最大11点あった差を縮められ、1Qは25-19。6点リードで1Qを終えた。


追う展開で焦りはなかった慶應大
“経験”を賭けた監督采配は東海大がダメージを受ける


090531kobayashi1.jpg2Q、慶應大は#4田上を下げたまま戦う。しかし、田上がいない、ということで弱気になっている選手はおらず、代わりにエース#5小林が攻守でチームを支えた。#46大塚に好ディフェンスを仕掛けると、1対1からの3Pで25-22とする。東海大は大塚のほか#29嶋田(4年・C)、#36養田(3年・F)ら控えがスタート。「40分で勝つことを考えた。最後の最後の勝負になると考えたらここで主力を休ませないともたない、と思った」という陸川監督。しかしまず小林に対応できなかった大塚がコートから消えた。東海大は#27石井講祐(4年・SG)に交代。慶應大は「練習で頑張っているからできると考えた」(佐々木HC)と、#15澤谷(3年・F)をワンポイントで投入し、続けて「チャンスを与えるため」と#18春本(2年・F)にもワンプレイさせる。ともに緊迫した試合で行ったメンバーチェンジだが、#27石井講祐はシュートも決めたが、2ファウル。コートから消えざるを得ない。慶應大はシュートが落ちても#14酒井を始め2人目、3人目がつなぎ、1Qは#5多嶋(3年・G)の前に遅れをとっていた#16二ノ宮(3年・G)が調子を上げると、開始3分の3Pで遂に27-27の同点に戻した。なおも攻撃は続き、逆転した慶應大。ディフェンスでは#5小林が#29嶋田からチャージングを取ったかに見えたが、これは惜しくもファウルに。東海大はディフェンスをゾーンにチェンジする。しかし、これはすぐに破られ、そこからは一進一退に。この状況で一番のポイントになったのは、ここでの東海大#4森田(2年・PG)の起用だった。2本の3Pを決めて1Qは沈黙していた#16二ノ宮が乗ってくると、マッチアップしている#5多嶋の影響力が薄くなってくる。残り3分、陸川監督はこの試合までもそうしていたように、代わりに#4森田(2年・PG)を投入した。昨年の新人戦決勝では終盤の大事な場面で役目を果たした森田を、陸川監督は「多嶋のバックアップ」と自信を持って送り込む。しかしコートに入って12秒で#16二ノ宮にスティールされるという結果に。陸川監督はすかさずタイムアウトを請求するが、そのまま森田を下げなかった。つけこんだのは慶應大だ。2度目は完全に狙っていたであろう二ノ宮は、再び森田からスティールし、連続得点。陸川監督がベンチで肩を落とした。東海大は#7遥、#0満原の連続3Pでリードし返し、こうした悪い流れを断ち切りたいが残り5秒、#16二ノ宮が鮮やかにドライブで切れ込み、レイアップを決めると、46-45と東海大のリードはわずか1点に。「初めての決勝という舞台では少し重かったかもしれない。でも絶対森田にはいい経験になります」と言った陸川監督。両チームとも選手を替えることを恐れなかった2Qとなった。しかしリードとはいえ、東海大の方が“してやられた感”は否めない采配となった。


3Qは再び東海大リード
しかし慶應大は#8石井敬一の守りで流れを変える


090531isii1.jpg「田上には3Q頭からいくぞと言った。ファウルアウトしてごたごたするなと言ったし、頭のいい彼は対応できた」と佐々木HC。フリースローこそ外したが、ミドルシュートや速攻など、彼らしいプレーが見え始める。しかしせっかく2Qで追いついた慶應大だったが、3Qは再び東海大にリードを奪われた。慶應大とは反対に、東海大のシュートが落ちない。特に#17前村(4年・G)、#24古川(4年・F)のシュートにはチームを背負う選手特有の責任感が見える。東海大は#7遥のバスカンで56-47と9点のリード。慶應大はフリースローの確率が上がらずに苦しくなる。そこで開始3分で投入したのは#8石井敬一(4年・G/F)。この、鍛えられた肉体を持つ慶應大のムードメーカーが#5多嶋に仕掛けた好ディフェンスが流れを変えた。出番は1分だが#5多嶋を突破させない守りを披露する。ここから慶應大は速攻や東海大ディフェンスの裏をかくシュートで1点差に追い上げる。東海大は攻撃がアウトサイドに頼りがちとなり、確率も悪くなってくる。反対に慶應大は足を繰り出し、逆転。5点のリードに成功した。


最後まで分からなかった試合は
正々堂々の真っ向勝負で決着


0905314keio2.jpg東海大は3Q残り3分から4Q開始3分で#24古川の3Pが決まるまでノーゴール。その間に慶應大は#16二ノ宮の1対1、#14酒井の速攻、#7岩下のダンクと見せるべきプレーを披露し、今度は東海大から最大13点のリードを奪う。けれど、「やることは変わらない」と言い続けてきた#24古川の3Pから東海大も好転する。両者激しいルーズボール争いを展開し、慶應大は岩下が2本目のダンクで東海大を突き放す。しかしタイムアウトのあと、#24古川、#17前村、#5多嶋が続けて3Pを決めると84-89。代々木に東海大応援団の大歓声が響き渡った。慶應大はアウトサイドのミスが続き、重苦しいがそれでもリードは揺るがない。勝負は残り1分の攻防になった。激しいルーズボール争いを行う両チーム。#5多嶋の3Pで89-91と2点差。しかし慶應大はファウルトラブルで苦しんでいた#4田上が残り25秒で3Pを放った。打つと決めていた訳ではない。しかし、打つべき瞬間がきた田上は迷わなかった。放った3Pは彼の特徴でもある美しく高い弧を描いて、ネットに吸い込まれる。「ああいう試合のときに勝負を決めるのは4年生でありキャプテン。その気持ちだけは絶対にゆるがせちゃいけないと思って臨んでいた」(#4田上)。これで89-94。しかしまだ勝負は終わらない。ファウルゲームに出た東海大。#16二ノ宮のフリースローは1本決まると、東海大はオフェンスで#24古川のシュートを#17前村がタップで入れて93-95の2点差。6.9秒には#5小林がフリースローを得た。ここから、ゲーム最後のハイライトがやってくる。いつも通りに打った小林はこれを2本とも外す。リバウンドは東海大。パスは、#17前村に渡った。「延長になればうちが絶対強い。迷って3Pを打つよりも、思いっきりいって延長にしようと思った」という前村はレイアップに飛んだ。しかし、その前に影が立ちはだかる。フリースローのリバウンドに入って、少しぼんやりしていたという岩下は入ると思っていた小林のフリースローが外れて、はっとしたと言う。今大会、どの試合も全く満足いく活躍ではない。準決勝のあと、「これで優勝できなかったら、自分は意味がない」と反省もしていた。勝負に際して、いまだ精神が追いついてこない未熟さが彼のプレーを不安定にさせている。しかし、この最後の瞬間、岩下の勝利に対する本能が反応する。
ボールと前村がどこにいったのか、「探して、見つけて、追いかけた」。
前村とは逆サイドから駆け上がってきた岩下は、信じられないくらいの早さと鋭さでレイアップを迎え撃つ。岩下の持つ“205cmの体”という能力の驚くべきところは、実はジャンプしたときの高さというより飛距離だ。広いストライドから飛び上がった岩下は真っ向勝負にきた前村のシュートを完璧にブロックし、ゴールポストの下にもんどりうって倒れる。後ろから走り込んでいた田上がボールを確保し、ブザーとともに高々と投げ上げた。この瞬間、観客にまばたきも許さぬような息詰まる戦いは終わり、慶応義塾大学の40年ぶりの優勝が決まった。


【INTERVIEW】
「無冠のなぐさめはいらない」
誰もが認める優勝の影の立役者は次なる成長を誓う


◆#14酒井祐典(慶應大・3年・F)
0905314sakai1.jpg個人賞を獲れなかったことを、悔しがった。
この大会、酒井の働きが慶應大にとってどれだけ貢献度が高かったかは計り知れない。ボックスにものすごい数字が残る試合でなくとも、これだけの印象を残す選手は大学界にそういない。昨年はシックスマンとしての能力を遺憾なく発揮した。スタメンとなった今期はユニバーシアードの候補に入り、練習でチームを離れていた時間があったにも関わらず的確な動きで速攻の先頭を切り、プレーをつないで敵を翻弄した。酒井がいるといないでは、セカンドチャンスの数が違う。また、リバウンドでは最後に白鴎大の2mアビブに負けたが、身長187cmでありながら準々決勝までランキングトップを走る活躍だった。

李相佰杯では第1戦でいいプレーを見せたが、2戦、3戦では出番をもらえなかった。元々、人一倍強い闘志を持つ選手だ。他のメンバーなら試合に負けたあとは次の戦いに気持ちを切り替えるところを、最後まで勝敗に執着して悔しがる。だからこそ、彼は結果に見合う評価を欲しがった。

MVPの称号はエースである小林が獲得した。これに異論を唱える人は全くいないだろう。二ノ宮がPGとして更に向上した姿を見せて優秀選手賞を獲得したことも納得できる。しかし、もしもう1人に賞を与えることができるのならば、それは彼に送りたい。田上が「祐典がどれほどすごかったかは、慶應のみんなは分かっていますよ」と言う。慶應だけではない。この大会を見ていた人なら全員がそう感じただろう。彼には肩書きとしては何の称号も残らなかった。けれど、多くの人が彼に見えないメダルをかけてあげたことも確かだ。優勝したとはいえ、まだ課題も多くチームには伸びしろもある。大学界全体の充実が予想されている今シーズンで、彼が真の評価を得る機会はまた巡ってくるだろう。ゆるむことなく、それを見せてもらいたい。


-優勝おめでとうございます。スタメンが一緒に練習する時間が短い中での大会となりましたが。
「この大会で優勝することを目標にしていました。調整期間は短かったんですけど、今回に限っては5人だけではありますが、試合を通して自分たちのプレーをすることができました。でもそれなりにレベルも上がってきて、まだ課題はいっぱいあるんですけど、結果的に優勝ということで結果が出たことは良かったと思います」

-チームでの練習時間は十分とは言えなかったと思いますが、酒井選手はチームに残っていた4年生と、ケガだったり、いなかった選手との間をうまくつなぐようなプレーをしていましたね。
「プレースタイル的に僕は長期間合わせないとうまくいかないというタイプでもないので、地味にリバウンドだったり、勝負どころで点を決めたりという部分を常日頃頑張っていこうと思っていました。それがうまくできたと思います」

-それがアビブ選手には負けてしまったけどリバウンド王争いでトップに立っていた理由ではないでしょうか。リバウンド王はお兄さんも獲ったタイトルなので欲しかったのでは?(※1)
「決勝の前にも周りから期待しているぞと(気持ちを)あげられて(笑)。でも僕はそこは狙っていない訳ではないけど、東海大も簡単にやらせてはくれないだろうし。今日はあまり取れていないですよね、何本取ったのかな?(※2)狙ってはいたんですけど、悔しいですね。今思えば専修大が上がってきていればって感じですよね(笑)」

-まあそこはしょうがないですね。
「でもまた無冠なので。周りからは『メダルやるよ』とか『お前が陰のMVPだ』とか言われましたが、そんななぐさめはいらないです。悔しいです」

-でもみんな本当にそう思っていると思いますよ。
「でも本当に、非常に悔しいです」

-今季はB代表候補となって海外遠征に行ったり、李相佰杯にも選ばれました。ただし、李相佰杯では2試合出番をもらえなかったですよね。そこはなぜだったか自分で感じることはありましたか?
「自分では出られると思っていたので、そこは悔しいです。でも佐々木先生にも言われましたが、“どうだ、これだけできるぞ”というところを、今日はそこまでではなかったですけど、大会を通して見せることはできたかなという部分はあります」

-けれど、今日は酒井選手に寄らせて、小林選手に捌くというプレーが決まっていたし、数字以上に見せたところもあったと思います。
「そうですね、あそこのホットラインがあんなにうまくいくとは思いませんでした。特に指示ではなかったですけど、僕も視野は狭くないので常に大祐さんがどこにいるとか、もちろん1対1も考えて攻めていますけど、そういった周りの動きも見てやれました。今日だったらニノ(#16)からパスして岩下(#7)とか、そういういろんなラインができましたね。そこは今後も続けていけば得点力のアップにつながるし、あくまで僕らの目標は120点を取ることです(※3)。今大会は100点オーバーは一試合もないので本当に秋に向けてやることはあります。もちろん早慶戦もありますが秋に向けて完成度を上げていけたらと思います」

-代表に行って、他の監督であったり環境を経験して得られたものはありますか?
「特にユニバの監督である陸川さんの場合はああいう熱い、精神的な部分ですよね。JBLの方々のプレーも間近で見られましたし、早い展開であったり、慶應に持ち帰ってきてもうまくできるプレーもあります。個人的にはあまり試合に出られなかったので、満足いくとは言えないですけど」

-以前、佐々木HCは「(竹内)公輔が代表に行って、いいものを慶應に持ち帰って還元してくれる」とおっしゃっていたことがありましたが、酒井選手の場合はそうした部分はどうでしょうか。
「還元できたのかな?公輔さんの場合は試合に最前線で出て、活躍していますから。でも自分も岩下も代表ではまだそこまで出してもらっていません。ただ、プレーではダメだったかもしれないけど、裏方で見ている部分で精神的なところであったり、自分では自信。選ばれたということで自信にはなっています。運が良かったと言えますが、選ばれて良かったと思っています。関東選抜とかまだ分からないでですけど、これからどんどんそういのに選ばれて自分のプレースタイルを出して、誰が監督になるかは分かりませんがそういう人に認められるように頑張っていきたいと思います」
写真:チャージングを狙ったが惜しくもファウルとなった小林を抱き起こし、笑顔で励ます酒井。

※1 2006年のトーナメント、6位となった慶應大。不動のリバウンド王・竹内公輔(現JBLアイシン・日本大A代表)が代表合宿で欠場した中、酒井祐典の兄、泰滋(現JBL日立)がリバウンド王と得点王を獲得している。
※2 決勝のアベレージは13点、11リバウンド、5アシストのダブルダブル。しかし、白鴎大のアビブが快勝もあって19本を獲得。結果的に8本差で2位。それでも彼の身長と上位決戦の内容を考えれば驚くべき結果だ。
※3 今期の慶應大の目標は1試合120点を取っていくこととなっている。



「自分が“シーガルス”にならなきゃいけない!」
一回り大きくなった主将が秋以降の東海大を牽引する


◆#17前村雄大(東海大・4年・G・主将)
090531MAEMURA1.jpg今年の東海大の4年生の中に、下級生の頃から“この選手ならば”という確固たる精神的支柱がいた訳ではない。昨年のインカレ前あたりまでは、前村は選手からもスタッフからもキャプテン候補の上位として挙がっている名前ではなかった。話し合いで決まったキャプテンは自分でも「みんなに支えられている」と言い、周囲もそういう心境であるところが聞こえていたぐらいだ。

ところがどうだろう。この大会を通して前村が見せたものはキャプテンとしてこれ以上ない姿勢だった。176cmで何度もリバウンドをもぎ取り、大事なシュートを責任感を持って決めた。決勝では勝負処の3Pを始め、最後のレイアップもチームを代表して決めにいった。支えられているどころか、彼はこれ以上なくチームを支えている姿を、トーナメントで皆に表現した。キャプテンがこういう姿勢を見せれば、チームはこれまで以上に彼にしっかりとついてくるだろう。秋以降、前村の元により結束力が強くなった“シーガルス”を楽しみにしたい。


―今の気持ちは?
「悔しいです。悔しいですけど、試合自体はものすごく楽しかったっていうのがあって。終わった瞬間の悔しさもあったんですけど、すごいやりきったっていうのもあって。去年までのゲームとは違う終わり方だったと思います」

―どういった所が違うのでしょうか?
「やってきたことを本当に出せた。結果負けたのは自分たちに弱いところがまだあるので、そこは認めて。今日のゲームが絶対にリーグとインカレで東海が優勝するための土台になると思うので。だから今日のゲームは忘れないで、次に向けて動きだすだけですね」

―一度勝負がついたかと思われましたが、最後の追い上げは凄まじかったですね。
「そうですね。途中ちょっと相手のペースになっちゃった時もあったけど、ああやって粘って最後まで諦めない姿勢が東海です。最後点数が離れたけど、あの時間帯で追いつけるチームは東海しかない。ベンチも応援もあの時点で諦めてなかったんで、追い上げができたんだと思います」

―両チーム共に勝負強さが際立ちましたね。
「そうですね。慶應は去年のチャンピオンだけあって、そのメンバーも残っているし。その部分で勝負強さがあったと思います。もうちょっとみんなリングに向かっていければよかったんですけど、相手のプレッシャーに引いちゃったかなと思います。自分と古川(#24)がファウルでベンチにいる時に、相手に流れを掴まれた時もあったんで。でもその時に試合に出ていたメンバーにはいい経験になったと思うし、リーグとインカレにはこの経験は生きると思います。選手全員成長できる部分がまだたくさんあると思うんで、次は絶対優勝します」

―前村選手と古川選手がベンチに下がった時の気持ちは?
「古川は“自分が出なきゃ!”って思っていたかもしれないけど、僕はベンチから出て来たメンバーを信じるしかないので、応援していました。良いプレイをしてくれることを信じて応援しているし、次出る時の準備もしていました。今までのゲームでもベンチから出て来たメンバーが活躍してくれて、勝利に導いてくれていたので、僕はベンチに下がってもチームで戦ってきた東海だから、負けずに信じていました」

―試合後のミーティングではどんな話を?
「まだ弱いところもあるし、まだ伸びる部分もたくさんある。次へスタートを切らなきゃいけないっていうことを話しました。慶應が校歌(※1)歌っているのを見て、次は絶対あそこで校歌を歌うのは東海だって、みんなで話して。いつも通り元気よく終わりました」

―ラストプレイについてはどんな心境でしたか?
「真っ向勝負でいきたかった。でも冷静に考えたら、あそこでバックシュートもあったのかなとも思うんですけど。自分の弱いところでもあると思うんですけど、気持ちが熱くなっていて。最後は岩下と思いっきり真っ向勝負しました」

―あのプレイは結果としてブロックされましたが、チームとしても納得できる判断だったのではないでしょうか?
「相手がフリースロー外した時点で2点差だったので、延長になればうちが絶対強いって思っていました。3Pを打ってもよかったかなって思うんですけど、ここで迷って打つよりも、思いっきり行って延長にして。その勢いのまま延長で勝つっていうイメージがあったので。あそこで自分が行ったのも、みんな納得してくれたと思うし。最後みんな集まって声を掛けてくれたし。次あの瞬間が来たら、絶対に決められる、そんな存在になりたいです」

―今大会、前村選手の大事な場面での決定力には驚かせられましたが、何か自分の中での変化があったのでしょうか?
「本当に練習してきたことが出たんだと思います。チーム全体でものすごくシューティングをやるようになったし、森先生が入ってきてから思考トレーニングとか取り入れて、考え方は変わってきました。個人で点を穫るプレイもあるんですけど、チームで作って点が穫れるようになってきているし。パス一つ一つにみんなの想いがあるんで、シュートもその想いがあるから入るんだと思います」

―前村選手も古川選手も成長がはっきりと感じられましたね。
「古川は最上級生だし、誰がなんと言おうとあいつがうちのエースだし、その自覚があいつが一番持っているからだと思います。前はネガティブになっていた部分もあったと思うけど、今はみんなあいつのシュートには納得しているし、あいつも気持ちよくシュートが打てていると思うし。入る入らない関係なく、ノーマークを作ってあいつがシュートを打つこと自体ものすごくいいことだと思うんで。多分4年生がすごく仲が良くてまとまりもいいし、その中で責任感があると思うし。でも試合になったら練習してきたことを出すだけなんで、迷わずシュートを狙って打っているだけなんで。去年まで迷いながらって言ったら変ですけど、その迷いが今年は無くなって。パスならパス、シュートならシュートって決めているんで、迷い無くプレイできているんで、いいシュートが打てているんだと思います」

―キャプテンになって前村選手の意識は変わりましたか?
「そうですね。キャプテンがこの“シーガルス”の先頭だし、陸さんが求めている“シーガルス”を先頭になってやらないといけない。変な言い方すると自分が“シーガルス”じゃないといけない。観客が自分を見て“これがシーガルスなんだ!”って思われるくらいやらないといけないし、チームメイトはいいやつなんで付いてきてくれるし、支えてくれてここまで来られたと思うし。だからすごいいいチームだと思います」

―秋に向けて抱負をお願いします。
「自分たちはまだ成長できる部分があるし、この大会や練習で東海の戦い方が見えてきたと思います。それをもっと精度を上げることと、個人、個人がもっと強くなって、リーグ、インカレでは接戦とかじゃなくて、ぶっちぎりで優勝するくらいの勢いで行きたいです」

※1 慶應大がこうした勝負の場で歌うのは校歌ではなく、昭和2年に6大学野球で早稲田大に勝つために作られた応援歌「若き血」。肩を組んで歌うのが決まったスタイルで、野球に限らず、スポーツの場や同窓会などで広く歌われる。慶應義塾の伝統と精神を表現している歌でもある。また、早稲田大学でこれに対応するのは「紺碧の空」。早慶戦で両者を聞くことができる。
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テーマ : バスケットボール(日本) - ジャンル : スポーツ

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